リファレンスチェックの実務|同意の取り方と、聞いてよい範囲
監修
山永 航太 株式会社コテラス 代表取締役CEO/一般社団法人 人的資本経営推進協会 事務局長
立教大学 異文化コミュニケーション学部卒。2016年 楽天(株)グローバル人事部で新卒採用と人事企画を担当。2020年 (株)LabBase で採用コンサルティング部門の立ち上げ責任者を務め、2022年に株式会社コテラスを創業。2025年より一般社団法人 人的資本経営推進協会 事務局長。
■ この記事の要点
- リファレンスチェックは、同意の取り方と質問範囲を守れば違法ではない
- 同意が要るのは候補者本人だけでない。前職側の回答も個人データの第三者提供にあたる(個人情報保護委員会FAQ Q7-12)
- 厚労省Q&Aが示す同意の有効条件は3つ。「規約に書いてあるから同意済み」という扱いは通らない
- 同意書に書くべき項目は、この3条件から6点に逆算できる
- 聞いてよい範囲は、職安法・指針・要配慮個人情報という3つの層で決まる
※ 本記事中の法令・ガイドラインに関する記載は、公開時点(2026年9月13日)の情報に基づく一般的な整理です。個別事案への適用にあたっては、所管官庁等が公開する最新の公式情報をご確認のうえ、必要に応じて弁護士等の専門家へご相談ください。
目次
リファレンスチェックは違法なのか
同意の取り方と質問の範囲を守れば、リファレンスチェック自体は違法ではない。論点は「実施していいかどうか」ではなく「同意をどう設計するか」に集約される。
根拠は2つの法律にまたがる。職業安定法第5条の5は、求職者等の個人情報を収集・保管・使用する者に対し、業務の目的に必要な範囲内で扱うことを求めている(e-Gov 職業安定法)。個人情報保護法第20条・第27条は、要配慮個人情報の取得や第三者への提供に本人の同意を求めている(e-Gov 個人情報保護法)。この2つの枠組みを満たす設計になっているかどうかが、適法性の分かれ目になる。
同意は「誰の」同意が必要なのか
候補者本人だけでなく、前職側の回答にも同意が関わりうる。ここが実務で見落とされやすい。
個人情報保護法第27条第1項は、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めている(e-Gov 個人情報保護法)。個人情報保護委員会のFAQでは、第三者から退職した従業者の在籍確認や勤務状況について問合せを受けた場合の扱いを取り上げており(Q7-12)、こうした照会への回答は個人データの第三者提供にあたり、原則として本人の同意が必要になるという整理を示している(個人情報保護委員会FAQ Q7-12)。
つまり、前職の人事担当者が退職者について回答する行為そのものが、前職企業側の同意取得義務と結びつく場面がある。採用側が候補者から取る同意書は、前職側がこの確認をする材料を兼ねる、という整理もできる。
一方で、前職に照会へ回答する法律上の義務があるわけではない。労働基準法第22条は、退職者本人からの請求に基づく証明書の交付を規定するにとどまり、外部からの任意の照会に答えることまでは求めていない。同条第3項・第4項は証明書の記載事項を制限し、就業を妨げる目的での秘密裏の通信を禁じる規定でもあり、前職側が任意で回答するかどうかは、この枠組みを踏まえて前職企業自身が判断する事項になる。
同意書は何を満たせば有効になるのか
厚労省Q&Aが示す3条件を満たす設計が必要になる。「規約に書いてあるから同意済み」という扱いは通らない。
「令和4年改正職業安定法Q&A」の問3-4は、本人以外の者から個人情報を収集する場合の同意について、①同意を求める事項をできるだけ具体的・詳細に明示すること、②業務目的達成に必要な範囲を超える収集への同意を本来のサービス利用の条件としないこと、③本人の自由な意思に基づき明確に表示された同意であること、という3条件を示している(厚生労働省Q&A)。同Q&Aの問3-6は、利用規約を示したうえでのボタンクリックは同意として許容される一方、規約を示してサービス利用を開始させただけでは同意の明確な表示にあたらないとしている。
この3条件を同意書の記載項目に逆算すると、次の6点になる。
| # | 記載項目 |
|---|---|
| 1 | 利用目的(何のために照会するか) |
| 2 | 照会先の範囲(誰に照会するか) |
| 3 | 照会項目(何を聞くか) |
| 4 | 同意の任意性(拒否できること) |
| 5 | 情報の利用・保管範囲 |
| 6 | 前職側の確認材料を兼ねる旨 |
取得のタイミングにも注意点がある。エントリー時のフォームに一括で盛り込むと、選考への応募条件と誤認されやすく、条件2に抵触するおそれがある。内定通知と同時にまとめて取得する場合も、労働条件の確認事項と混在すると自由な意思による同意かどうかが不明確になりやすい。選考プロセスから独立させ、最終面接の前後で単独の同意書として取得する形が、3条件との整合を取りやすい基本形になる。
聞いてよい範囲はどこまでか
聞いてよい範囲は、3つの層で決まる。職業安定法第5条の5が定める「業務の目的の達成に必要な範囲内」(e-Gov 職業安定法)、指針(平成11年労働省告示第141号)が定める収集禁止の3類型(人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地等、思想及び信条、労働組合への加入状況)、そして個人情報保護法第20条第2項が定める要配慮個人情報である(e-Gov 個人情報保護法)。
この3類型には、特別な職業上の必要性があり業務目的の達成に不可欠な場合という例外があるが、指針はその例外を本人から直接収集する場合に限っている。リファレンスチェックは前職の推薦者という本人以外の者からの収集にあたるため、この例外は当てはまらない。つまり3類型に触れる質問は、リファレンスチェックの枠組みでは正当化の余地がないという整理になる。
厚生労働省「公正な採用選考の基本」は、本人に責任のない事項(本籍・出生地、家族の職業・健康・地位・学歴・収入・資産、住宅状況、生活環境・家庭環境)と、本来自由であるべき事項(宗教、支持政党、人生観・生活信条、社会運動など)を、把握・記入・質問してはならない事項として列挙している(厚生労働省)。同ページは、現住所の略図等を提出させることは生活環境などの把握や身元調査につながる可能性がある、とも注記しており、リファレンスチェックが「身元調査」に転化しないよう、誰に何を聞くかの設計に線を引く必要がある。
実務で越えやすいのは、病気・休職歴、家族構成、素行の3項目である。いずれも本人に責任のない事項や要配慮個人情報に触れやすいため、「業務上どう行動していたか」という職務行動の観察に翻訳して聞く形に置き換えられる。設計段階で照会項目を点検する運用と、回答者が自発的に語った項目までは記録しない運用の2つが、対処の型になる。
採用企業はなぜ「仲介業者の話」で済ませられないのか
職業安定法第5条の5の義務主体には、公共職業安定所や職業紹介事業者だけでなく「求人者」、つまり採用する企業自身が含まれている(e-Gov 職業安定法)。この規定は令和4年(2022年)10月1日施行の改正で明確になったものである。
つまり、リファレンスチェックを外部サービスに委託していたとしても、個人情報の取扱いに関する義務を負うのは仲介業者だけではなく、採用企業自身になる。委託先の規約や説明を確認して終わりにせず、自社の同意取得・質問設計として点検しておく必要がある。
この先、同意の運用は変わるのか
個人情報保護法は3年ごとに見直される仕組みになっており、2026年7月17日に改正法が公布された。公布から2年以内、2028年7月頃までに全面施行される見通しである(改正動向の解説)。第三者提供に関する同意の例外規定が見直しの対象に含まれており、リファレンスチェックの同意運用にも影響し得る。
要配慮個人情報の取得要件そのものへの変更は現時点では明記されていないが、制度は動いている。同意書のひな形や運用フローは一度作って終わりにせず、施行時期が近づいた段階で内容を再確認する運用にしておく必要がある。
まとめ
リファレンスチェックの適法性は、実施の可否ではなく同意の設計で決まる。候補者本人だけでなく前職側にも同意が関わる場面があること、厚労省Q&Aの3条件から同意書の記載項目を逆算できること、聞いてよい範囲が3つの層で決まることが実務上の要点になる。
個別の事案でどこまで踏み込んでよいかの最終判断は、社会保険労務士や弁護士への確認を前提とする。本記事は自社で点検できる範囲の整理にとどめている。
よくある質問
リファレンスチェックの同意は、いつ取るのがよいか
選考プロセスから独立させ、最終面接の前後で単独の同意書として取得する形が、厚労省Q&Aの3条件と整合を取りやすい。エントリー時の一括同意や内定通知との抱き合わせは、任意性や同意の明確さの面で疑義が生じやすい。
前職の会社に照会すると、前職の会社側にもリスクが生じるか
前職の担当者が退職者の在籍確認や勤務状況に回答する行為は、個人情報保護委員会のFAQ(Q7-12)が示すとおり個人データの第三者提供にあたり、本人の同意が関わりうる。採用側が取る同意書は、この確認の材料を兼ねるという整理ができる。
同意書には何を書けばよいか
利用目的、照会先の範囲、照会項目、同意の任意性、情報の利用・保管範囲、前職側の確認材料を兼ねる旨の6点が、厚労省Q&Aの3条件から逆算できる記載項目になる。
聞いてはいけない項目にはどんなものがあるか
本籍・出生地、家族の職業や健康、宗教や支持政党など、本人に責任のない事項・本来自由であるべき事項が該当する。病気・休職歴、家族構成、素行は特に踏み込みやすいため、職務行動の観察に置き換える運用が対処の型になる。