助成金・補助金

IT導入補助金でAIツールを導入する|申請区分の選び方と採択率の実際

山永 航太 監修

山永 航太 株式会社コテラス 代表取締役CEO/一般社団法人 人的資本経営推進協会 事務局長

立教大学 異文化コミュニケーション学部卒。2016年 楽天(株)グローバル人事部で新卒採用と人事企画を担当。2020年 (株)LabBase で採用コンサルティング部門の立ち上げ責任者を務め、2022年に株式会社コテラスを創業。2025年より一般社団法人 人的資本経営推進協会 事務局長。

■ この記事の要点

  • IT導入補助金は「デジタル化・AI導入補助金」に名称変更された。事務局側でも旧名称が残る過渡期にある
  • 「AIだから対象外」ではない。ITツール定義に「AIを含む」と明記され、登録済みAI搭載ツールは対象になる
  • 壁は「登録制」と「プロセス要件」の2つ。汎用AIツール単体はここで止まりやすい
  • IT導入支援事業者との共同申請が前提。事業者を先に決めず、業務課題とツール要件を先に固める
  • 「実質ゼロ円」の費用説明は割安ではなく、交付決定取消しにつながる危険信号

※ 本記事の制度名称・申請区分・採択率・公募要領の内容は、いずれも公開時点(2026年9月6日)の情報にもとづきます。

目次

IT導入補助金とは何か(今も同じ名前の制度か)

「IT導入補助金」は、2025年度補正予算事業から**「デジタル化・AI導入補助金」**へ名称が変更されている。ITツール導入にとどまらず、AI活用の重要性を周知する狙いだ(事務局お知らせ 2026-01-23)。ただし申請マイページやIT導入支援事業者向けポータル、事務局からのメールの一部では、いまも旧名称が使われ続けている。制度の運用側自体が過渡期にあるため、「IT導入補助金」で検索してきたこと自体は誤りではない。まずこの前提をそろえてから、以降は現行名称で解説する。

対象は中小企業・小規模事業者等(法人または個人事業主)。自社の労働生産性向上に資するITツールの導入費用の一部を補助する制度で、単独の企業が国に直接申請する仕組みではなく、IT導入支援事業者との共同事業体として申請する点が制度の基本構造になる。

AIツールは対象になるか

**「AIだから対象外」ではない。**今年度からITツールの定義に「AIを含む」ことが明記され、AI搭載の有無はITツール検索で確認できるようになった。登録済みのAI搭載ツールを選ぶ形であれば、制度がむしろ後押ししている領域にあたる。

対象・非対象を分けているのは、AIかどうかではなく次の2つの壁だ。

壁1:登録制。補助対象になる経費は、IT導入支援事業者が事前に事務局へ登録した「ITツール」の導入費用に限られる。導入したいツールがこの登録済みITツールに含まれているかどうかは、ITツール検索で確認できる。登録が無いツールは、そもそも補助対象経費に計上できない。

壁2:プロセス要件(通常枠)。登録済みのITツールであっても、通常枠で申請する場合は顧客対応・会計・労務といった業務プロセス(共通プロセスP-01〜各業種プロセスP-06)を1種類以上含んでいる必要がある(補助金申請額150万円〜450万円の場合は、汎用プロセスを含めて4種類以上)。チャットボットやRPAのような「汎用プロセス」のみのITツールは、単独では交付申請できない。業務プロセスを含む他のITツールと組み合わせれば申請可能になる。

この2つの壁を当てはめると、AI導入の相談でよくあるパターンは次のように整理できる。

導入したいもの 登録制の壁 プロセス要件の壁 判定
ChatGPT・Claude等の汎用AIツールを単体で 登録が無ければここで対象外 登録があっても汎用プロセスのみなら単独申請不可 原則通らない
AI搭載の業務システム(登録済み・業務プロセスを含む) 該当 該当 対象。制度が後押しする領域
生成AI APIを組み込んだ自社開発システムの構築・導入支援 IT導入支援事業者が登録していれば該当 ツールのプロセス構成による 対象になりうる(事業者への確認が前提)
生成AIのクラウド利用料(SaaS型) 該当あり 同上 対象経費に含まれる場合あり。期間の上限は年度要件を確認

「AIかどうか」ではなく「登録制とプロセス要件を満たすか」で判定が割れる。この論点は検索結果の多くが素通りしている。

どの申請区分を選べばよいか

申請区分は5種類ある。AI導入だからといって特別な枠があるわけではなく、導入目的に応じて枠が決まる。

  • 通常枠:業務効率化・生産性向上が目的。AIツール導入は基本的にここに該当する
  • インボイス枠(インボイス対応類型):会計・受発注システムなど、インボイス制度への対応が目的
  • インボイス枠(電子取引類型):同上、電子取引の観点から対応する場合
  • セキュリティ対策推進枠:サイバーセキュリティ対策ツールの導入が目的
  • 複数者連携デジタル化・AI導入枠:複数の中小企業・小規模事業者が連携した地域DXの取り組みが目的

生成AI・業務AIツールの導入を目的とする相談は、ほとんどの場合が通常枠に当てはまる。インボイス枠は会計・受発注・決済機能を持つソフトウェアが対象、セキュリティ対策推進枠はIPA公表のサービスリスト掲載サービスが対象というように、目的が明確に異なる枠のため、まず自社の目的がどれに当たるかを先に切り分けるとよい。

採択率は実際どの程度か

採択率は**申請枠ごとに差があり、締切回・年度によって変動する。**公式の交付決定事業者一覧(一次データ)から本記事執筆時点で計算すると、2026年度の通常枠は1次締切(2026年6月18日交付決定)が申請2,028件・採択891件(採択率約43.9%)、2次締切(2026年7月23日交付決定)が申請1,879件・採択819件(約43.6%)、3次締切(2026年9月2日交付決定)が申請1,913件・採択807件(約42.2%)と、おおむね4割強で推移している。インボイス対応類型は1次が申請4,324件・採択2,027件(約46.9%)、2次が申請3,790件・採択2,096件(約55.3%)、3次が申請3,982件・採択1,781件(約44.7%)だった(出典:デジタル化・AI導入補助金2026 交付決定事業者一覧)。

この数値は締切回が進むごとに更新される。**申請時は必ず当該締切回の最新の交付決定事業者一覧で確認すること。**過去の年間集計値をそのまま引用しても、直近の傾向とはずれる場合がある。

申請の進め方はどうなるか

本制度はIT導入支援事業者との共同事業体での申請が前提であり、事業者は国に直接申請できない仕組みになっている。ここで実務上の順序を間違えやすい。**事業者を先に決めてしまうと、その事業者が登録しているツールの範囲に選択肢が縛られる。**業務課題とツールに求める要件を先に固めたうえで、それを扱える事業者を探す順序が原則になる。

IT導入支援事業者を選ぶ際に見ておくべき点は3つある。

  1. **候補のツールが、その事業者の登録ツールに含まれているか。**登録が無ければ、その事業者経由では申請できない
  2. **採択後の後半戦に並走する体制があるか。**効果報告は交付後1〜3年度目まで続く。補助額150万円以上、または過去の交付決定者が再申請する場合は賃上げ目標の表明が必須要件になり、未達なら返還が発生しうる(公募要領(通常枠)2026-08-28改訂版
  3. **費用説明が透明か。**申請支援にかかる費用の内訳が曖昧な事業者は避ける

よくある対象外・危険パターンは何か

制度上「通らない」パターンだけでなく、「組む相手を間違える」ことで後から問題になるパターンがある。

  1. **汎用プロセスのみのITツールを単独で交付申請する。**通常枠は業務プロセスを1種類以上含む必要があるため、汎用チャットボットやRPA単体では単独申請できない。業務プロセスを含む他のツールと組み合わせれば申請可能になる
  2. **IT導入支援事業者を介さず直接申請しようとする。**本制度は登録済みITツールからの選択と共同事業体での申請が前提の仕組みで、事業者を介さない単独申請はそもそも成立しない
  3. **「実質ゼロ円」「申請から導入まで全部こちらでやります」を強調する事業者と組む。**キャッシュバック等による実質的な費用の還元は交付決定取消しの対象になる。申請代行にかかる費用はそもそも補助対象経費に含まれない。申請マイページのIDとパスワードを事業者に渡すことも禁止されている。安さ・手軽さを前面に出す訴求は、割安の証拠ではなくむしろ危険信号として見る
  4. **採択をゴールにして、その後の対応を想定していない。**効果報告は交付後1〜3年度目まで続き、対象者には賃上げ目標の達成状況の報告義務がある。未達の場合は補助金の返還につながることがある

まとめ

IT導入補助金は「デジタル化・AI導入補助金」に名称が変わったが、公式の運用側でもまだ旧名称が使われる過渡期にある。AIツールが対象になるかどうかは、AIであること自体が壁になるのではなく、「登録制」と「プロセス要件」という2つの制度上の条件で決まる。申請区分は目的で選び、採択率は締切回ごとの最新値を都度確認する。そして、IT導入支援事業者は先に決めるのではなく、自社の業務課題とツール要件を固めてから選ぶ。安さや手軽さを強調する事業者には、交付決定取消しのリスクという観点から距離を置く判断が必要になる。

よくある質問

ChatGPTなどの汎用AIツールは、単体で申請できますか

原則できない。補助対象経費はIT導入支援事業者が事務局に事前登録した「ITツール」の導入費用に限られ、通常枠ではさらに顧客対応・会計・労務といった業務プロセスを1種類以上含む必要がある。チャットボットやRPAのような汎用プロセスのみのITツールは単独では交付申請できないが、業務プロセスを含む他のITツールと組み合わせれば申請できる。

「IT導入補助金」と「デジタル化・AI導入補助金」は別の制度ですか

同じ制度で、名称が変更されたもの。2025年度補正予算事業から「デジタル化・AI導入補助金」が現行名称になった。ただし申請マイページや事務局からのメールの一部では旧名称が使われ続けており、運用側自体が過渡期にある。旧名称で検索しても現行制度の情報にたどり着ける。

AIツールの導入は、どの申請枠になりますか

業務効率化・生産性向上が目的なら、基本は通常枠に該当する。AI導入のための特別な枠があるわけではなく、インボイス対応・セキュリティ対策・複数者連携といった目的が明確に異なる場合にのみ他の枠を検討する。

自社だけで申請できますか

できない。本制度はIT導入支援事業者との共同事業体での申請が前提で、事業者を介さない単独申請は成立しない。ただし事業者を先に決めるとツールの選択肢がその事業者の登録範囲に縛られるため、業務課題とツールに求める要件を固めてから、それを扱える事業者を探す順序が原則になる。

IT導入支援事業者はどう選べばよいですか

見るべき点は3つ。①導入したいツールがその事業者の登録ツールに含まれているか、②効果報告(交付後1〜3年度目まで)などの採択後の対応に並走する体制があるか、③費用の説明が透明か。「実質ゼロ円」のような費用の実質還元は交付決定取消しの対象であり、申請の丸投げを持ちかける事業者と合わせて、安さ・手軽さの訴求はむしろ危険信号として見る。

監修
山永 航太(代表取締役CEO/一般社団法人 人的資本経営推進協会 事務局長)
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