人事評価

人事評価制度の作り方|等級・評価・報酬の三点をつなぐ設計手順

山永 航太 監修

山永 航太 株式会社コテラス 代表取締役CEO/一般社団法人 人的資本経営推進協会 事務局長

立教大学 異文化コミュニケーション学部卒。2016年 楽天(株)グローバル人事部で新卒採用と人事企画を担当。2020年 (株)LabBase で採用コンサルティング部門の立ち上げ責任者を務め、2022年に株式会社コテラスを創業。2025年より一般社団法人 人的資本経営推進協会 事務局長。

■ この記事の要点

  • 人事評価制度は「等級」「評価」「報酬」の3つの制度の総称であり、評価シート単体を指す言葉ではない
  • 制度が形骸化する主因は着手順序ではなく、「作ったら完成」という前提そのものにある
  • 等級・評価・報酬は本来絡み合っており、着手点として等級から作り始めるとやりやすい
  • 評価者間のブレには「人起因の甘辛」と「制度起因の抽象度」の2種類があり、対処法が異なる
  • 生成AIの普及で評価の個別性が上がり、桁違いの成果を出す人材を従来の等級テーブルでは測りきれなくなっている
目次

人事評価制度とは何か

等級制度・評価制度・報酬制度という3つの制度を指す総称であり、評価シート単体のことではない。

  • 等級制度: 社内での役割・レベルを段階として定義する制度
  • 評価制度: 一定期間の働きぶりや成果を測定し、等級・報酬に反映する仕組み
  • 報酬制度: 等級と評価の結果を、給与・賞与にどう変換するかを定めた仕組み

3つは互いに接続して初めて機能する。評価シートのフォーマットだけを整えても、 その結果が等級や報酬のどこに反映されるかが決まっていなければ、制度としては動かない。

なぜ「評価シートから作る」と失敗するのか

評価シートを先に作ってしまうことは失敗の症状であって、原因ではない。 根っこにあるのは「制度は作ったら完成」「一度作ったら当面は変えないもの」という前提そのものにある。

事業も組織も人も変わり続けるため、評価制度は運用しながら毎期アップデートしていく前提で 設計したほうが機能しやすい。したがって設計の時点で、次の2点を決めておく必要がある。

  • 誰が、いつ見直すのか
  • どのデータを見て、どこを直すのか

ここが抜けたまま精緻な評価シートだけができあがると、数年後には誰も更新の経緯を 説明できない制度が残ることになる。

等級・評価・報酬はどの順で設計すればよいか

「この順で進めるべき」という順序の規範ではなく、等級・評価・報酬は本来絡み合って 作られるものであり、着手点として等級がやりやすい、という整理になる。

等級は「その会社における期待役割の言語化」であり、コンピテンシーや自社が大切にしている 価値観を材料にすると比較的言語化しやすい。これが「等級から作るのが吉」とされる理由である。

ただし、等級を作って終わりではない。評価・報酬を1〜2回転させてみると、実際の運用の しやすさ・しづらさが見えてくるため、等級自体もそれに合わせてチューニングしていく必要がある。 ここに手を入れ続けられるかどうかが、制度が生きるか形骸化するかの分かれ目になる。

逆に、報酬設計から入ると手戻りになりやすい。「意欲的に働いてもらうためのインセンティブを 作りたい」という発想から始めると、個人の成長に紐づかない仕組みや、社内でバランスの崩れた 報酬体系になりやすく、後から等級・評価との整合を取り直す作業が発生する。

設計の手順はどう進めればよいか

各ステップを「何が確定すれば次に進めてよいか」という完了条件で区切ると、 手戻りを減らせる。

ステップ やること 次に進めてよい条件
1. 等級設計 期待役割をレベルごとに言語化する コンピテンシー・バリューを踏まえた等級定義に、現場の管理職が合意している
2. 評価基準設計 等級ごとの評価項目・評価方法を決める 評価項目が抽象的な精神論ではなく、行動として観察できる粒度になっている
3. 報酬設計 評価結果を給与・賞与にどう反映するかを決める 等級・評価の結果と報酬の対応関係が、経営層・現場の双方に説明できる
4. 運用ルール策定 見直しの主体・頻度・見るデータを決める 「誰が」「いつ」「どのデータを見て」見直すかが文書化されている
5. 周知・教育 評価者・被評価者へ制度と評価基準を説明する 評価者が評価項目を自分の言葉で説明できる状態になっている

1〜3は一度で確定させず、2〜3の運用を経てから等級側を微調整する前提で進めることになる。

評価者間のブレはなぜ起きるのか

ブレには「人起因の甘辛」と「制度起因の抽象度」の2種類があり、対処法が異なる。 どちらが原因かを切り分けるところから始めることになる。

ブレの種類 原因 対処の方向性
評価者ごとの甘辛 評価者個人の傾向 評価者間のキャリブレーション(評価のすり合わせ)
評価基準の抽象度が高すぎる 制度そのもの 評価項目を具体的な行動レベルまで書き直す

評価項目を行動レベルまで書き直す作業は、実質的には現場のスキル定義に近くなるため、 人事だけでは完結せず、HRBPや現場マネージャーの協力が前提になる。 言語で基準を扱う以上、意味のズレを完全にゼロにはできないため、評価会議でのすり合わせを 継続的に行う運用も、対処の一つとして挙げられる。

AIの普及で人事評価に何が変わったか

生成AIの普及によって、評価の設計に新しく2つの論点が加わっている。

  • 評価に求められる個別性が上がっている: 全社一律の物差しで測りきれない働き方が増え、 画一的な評価基準ほど納得感を得にくくなっている
  • 従来の等級・昇給テーブルに収まらない人材が出てきている: AIを使いこなして 桁違いの成果を出す人材(Josh Bersinが「スーパーワーカー」と呼ぶ層)を、 従来の等級区分だけでは評価しきれない場面が増えている (Josh Bersin「The Rise of the Superworker」

いずれの論点も、評価制度を「一度固めて終わり」ではなく、運用しながら直し続けられる 設計にしておくことの必要性を裏づけている。

まとめ

人事評価制度は等級・評価・報酬の3制度の総称であり、評価シート単体の設計では完成しない。 着手順序としては等級から入りやすいが、それは規範ではなく整理の目安であり、 3つを絡み合わせながら1〜2回転させて調整していく前提で設計することになる。

評価者間のブレは原因が2種類あるため切り分けが要り、AIの普及で評価の個別性への 要求はさらに高まっている。制度は作った後も、誰がいつどのデータを見て見直すかまで 決めておくことが、形骸化を防ぐ分かれ目になる。

監修
山永 航太(代表取締役CEO/一般社団法人 人的資本経営推進協会 事務局長)
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