AI面接が代われるのは「作業」まで、仕事の最終責任は人に残る。

「AIが不合格と判定したエントリーシートを、人はもう一度きちんと開き直しているか」――採用の現場でこの問いに即答できる会社は、思っているより少ない。書類選考や動画面接でAIの合否判定を使う企業は増えたが、「AIが不合格と判定したあと、誰がどう最終確認するか」を承認フロー(AIの判定に人がどう確認・承認するかを定めた運用ルール)として設計できている企業は多くない。本稿でわかるのは、AI面接・選考の普及実態、業務別のAIと人の役割分担、承認フロー設計で決めておくべきことだ。結論を先に言えば、問われているのは導入の是非ではなく、選考のどこまでを「作業」としてAIに渡し、どこからを「仕事」として人が持ち続けるかという線引きである。私たちは、この線引きをツール選定より先に済ませておくべきだと考えている。

いま、AI面接・選考は「実験」から「標準装備」へ

AI採用ツールは一部企業の実験を終え、選考インフラとして定着しつつある。

企業のAI採用ツール導入率は2025年時点の調査で47.9%、対話型AI面接「SHaiN」は2026年3月に導入企業数1,000社を突破したとSHaiN運営会社が公表している(2025年7月時点では800社、累計受検者13.8万人)。動画面接AI「harutaka」を提供するZENKIGENも2025年5月時点で導入企業700社超、累計動画データ約1,500万件と公表しており、パソナグループなど大手の参入も相次ぎ、国内では約20のサービスが競合する(日本経済新聞、AchieveHR等の報道による。数字は二次媒体経由のものが多く、一次調査主体の特定は難しい点に留意したい)。

ただし、AI活用が進む業務領域には偏りがある。経団連が2025年7月から2026年2月にかけてHR部門でAI活用中の企業・ベンダー75社にヒアリングした報告書では、活用領域は「採用」が25社と最多で、「労務管理」22社、「エンゲージメントサーベイ」21社、「人材育成」20社と続く一方、「人材配置」や「人事評価」「報酬」への活用は依然少数派だった。応募者を絞り込む"入口"の作業はAIに委ねられつつあるが、評価や配置という"人を評価し続ける仕事"には人間の判断が強く残る。入口の網は機械に任せられても、網の向こうで握手をするかどうかは人が決めている――この非対称こそが、承認フロー設計の出発点になる。

業務別に見る、AIへの権限委譲の実態

選考プロセスを段階ごとに見ると、AIに委ねられているのは主に「作業」であり、「仕事」としての最終判断は人に残す設計が主流であることがわかる。

書類選考―AIの不合格判定を人が覆せる設計

書類選考では、AIの判定を人が上書きできる仕組みを最初から組み込む先行事例が存在する。

ソフトバンクはエントリーシート選考にIBM Watsonを活用し、AIが合格基準を満たさないと判定した場合でも、人事担当者が内容を再確認して最終判断する二段構えの運用を続けている。同社は人事評価とWatson判定を比較した結果がほぼ一致したと説明しているが、これは社内比較であり、外部機関による独立検証ではない点は区別したい。それでも「AIの不合格判定を人が覆せる」という設計自体が、権限委譲の線引きを可視化した実務的な工夫だ。

動画面接・対話型AI面接―一次スクリーニングという「作業」

動画面接・対話型AI面接の多くは、最終合否そのものではなく一次スクリーニングという作業を代替する位置づけで使われている。

ローソンは2026年卒採用でAI面接を導入し、対象学生約500人へのアンケートで98%が「よかった」と回答、内定承諾率が約1割向上したと同社が公表している。キリンホールディングスは対象コースを5から12へ拡大し、ベンダーのVARIETAS社は「初期選考時間97%削減、選考対象者数20%増」という数字を公表している。いずれも自社・ベンダーの公表値であり、第三者による効果検証を経たものではない。特に「97%削減」はベンダー自身の発表であるため、誇張の可能性を織り込んで受け止めるべきだろう。動画面接AIがやっているのは、面接官一人では追いきれない応募者の量を、先に仕分けておく役目に近い。仕分けの先で「会って話す」と決めるのは、依然として人だ。

なお、一部のAI面接では経済産業省が定める「社会人基礎力」12項目を評価軸として採用し、評価スコアと合否の相関を検証したとベンダーが公表している。「何を評価しているか」を既存の公的フレームに紐づけることで、説明可能性を担保しようとする工夫と読める。

適性検査・本人確認―新たな「不正」への対応という仕事

適性検査では、AIによる評価そのものより、受検の真正性という別種のリスクへの対応が課題になっている。

非対面受検の拡大と生成AIの普及により、替え玉受検や生成AIを使った不正回答が増加しており、「ミキワメAI監視 in 適性検査」のようにカメラ・マイク情報で本人照合し不正を検知する機能を提供するベンダーも出てきた(リーディングマーク公表)。AIによる差別とは異なる軸のリスクだが、選考全体の信頼性を語るうえで欠かせない論点である。

「人間の承認」は免罪符になるか

human-in-the-loop(人間がAIの判断過程に関与する運用)を挟むだけでは、責任問題が解消するわけではない。

国内の論考の中には、人間の承認が実質的にAIスコアを追認するだけの「形式的レビュー」に陥りやすく、かえって責任の所在を曖昧にする危うさを指摘するものがある(note掲載の個人論考。実証研究ではなく問題提起として引用する)。人が押印するだけの承認フローは、仕事を人に残しているように見えて、実態は作業の追認に過ぎないかもしれない。私たちは、承認フローの価値は「人の署名があること」ではなく「人が根拠を説明できること」にあると考えている。判子を押すだけの承認は、AIの判断をなぞっているだけで、責任の所在をむしろ見えにくくする。

この論点は日本独自の重い前例とも地続きだ。2019年、リクルートの「リクナビ2019」がCookie等をもとに内定辞退率をスコア化し、本人の同意なくトヨタ自動車や京セラなど契約企業35社に提供していたことが発覚し、個人情報保護委員会が勧告・指導、厚生労働省も職業安定法違反の可能性で行政指導を行った。AIそのものの選考事例ではないが、「AIスコアリング×個人情報×職業安定法」という論点構造は現在のAI選考リスクと直結している。個人情報保護委員会は2025年10月、採用可否判断へのプロファイリング活用に伴うバイアス等のリスクを踏まえた規制の法制化を提言しており(国際連携推進センター等による提言。法改正はまだ確定していない)、法的な地ならしは今後も続くとみられる。

応募者側の受け止めも軽視できない。TalentXの調査では、中途採用でAIを使った選考と知ると「志望度が下がる」と回答した割合が59.8%にのぼり、マイナビの調査では28卒学生の約6割が「AI面接の結果だけで不合格になることに納得できない」と回答している(いずれも調査主体・時点の異なる別調査であり、断定的な一般化は避けたい)。こうした反発を受け、PeopleXは2025年8月、性別・国籍等のバイアスを排除する評価機能とAI倫理運営委員会による審査体制を自社公表し、タレントパレットとaileadも2025年5月、面接評価の「ブラックボックス化」を解消する会話要約・可視化機能を打ち出した。いずれもベンダー自身が公表した機能であり効果検証データではないが、業界側が説明責任への圧力を感じ始めている表れだろう。

始めるには―承認フローをどう設計するか

始めるべきは新しいAIツールの選定ではなく、既存の選考プロセスのどこが「作業」でどこが「仕事」かを棚卸しすることだ。

具体的には次の手順が現実的だろう。

  • 選考の各段階(書類・面接・適性検査)を洗い出し、AI単独判断・AI判定+人による確認・人単独判断の三層のどれに位置づけるかを明文化する
  • 「人が確認する」と決めた段階では、確認が形式的な追認で終わらないよう、AIが何を根拠に判定したかを担当者が説明できる状態にしておく
  • リクナビ事件が示す教訓として、応募者データの利用目的・同意取得の設計を選考ロジックの設計と同時に行う
  • 応募者への説明のしやすさを、ツール選定基準の一つとして明示的に組み込む(社会人基礎力など既存の公的フレームを評価軸に据える工夫は参考になる)

つまずきやすいのは、承認フローを「導入時に一度決めて終わり」にしてしまうことだ。応募者数や選考基準が変わるたびに、どこまでをAIに委ねてよいかは変わりうる。線引きは一度引いたら終わりの境界線ではなく、定期的に引き直す前提で設計しておきたい。

まとめ

AI面接・選考の普及は、選考という仕事全体をAIが代替する話ではなく、まず「作業」の部分から代替が進んでいるというのが実態に近い。

第一に、導入は乱立から標準化の段階に入っているが、経団連の調査が示す通り評価領域への活用はまだ限定的だ。第二に、業務別に見ても最終判断を人に残す設計が主流であり、人間の承認をどう機能させるかが問われている。第三に、リクナビ事件や応募者の反発データが示すように、法的・心理的なリスクは技術の精度だけでは解消しない。AIに任せていいのは応募者を絞り込む「作業」までであり、応募者一人ひとりの人生に関わる「仕事」まで手放すべきではない――これが私たちの立場だ。人的資本経営の本質は、AIによって人と向き合う時間を増やすことにある。CoTerraceは、この承認フローの棚卸しから、人事の現場で実際に機能するAI活用の設計まで、一緒に考える伴走者でありたい。


← HR Terrace Lab に戻る