配置・登用

配置転換の実務|本人の納得と、法的な線引き

山永 航太 監修

山永 航太 株式会社コテラス 代表取締役CEO/一般社団法人 人的資本経営推進協会 事務局長

立教大学 異文化コミュニケーション学部卒。2016年 楽天(株)グローバル人事部で新卒採用と人事企画を担当。2020年 (株)LabBase で採用コンサルティング部門の立ち上げ責任者を務め、2022年に株式会社コテラスを創業。2025年より一般社団法人 人的資本経営推進協会 事務局長。

■ この記事の要点

  • 配置転換は職務・所属の変更を指し、勤務地の変更を伴う転勤とは判断の枠組みを共有する。出向は指揮命令権が他社に移る点で扱いが異なる
  • 就業規則に包括条項があれば会社は原則命令できるが、業務上の必要性の不在・不当な動機・著しい不利益のいずれかがあれば無効になりうる
  • 2024年以降の契約では「変更の範囲」の明示化に伴い、まず職種限定合意の有無を確認する必要が生じた(令和6年最判)
  • 法的に有効な命令でも、打診から辞令までの手順を設計しないと本人の納得は得られない
  • 拒否された場合は、理由が客観的に確認できる事情か受容の問題かで切り分けて対応する

※ 本記事中の法令・判例に関する記載は、公開時点(2026年9月13日)の情報に基づく一般的な整理です。個別事案への適用にあたっては、所管官庁等が公開する最新の公式情報をご確認のうえ、必要に応じて弁護士・社会保険労務士等の専門家へご相談ください。

目次

配置転換とは何か

同一の企業の中で、担当する職務や所属部署が変わることを指す。**勤務地の変更を伴うものは転勤と呼ばれるが、配転命令が有効かどうかを判断する枠組みは転勤と共通である。**一方、雇用契約はそのままに他社の指揮命令下で働く出向は、指揮命令権が移る点で扱いが異なる。本記事は同一勤務地内の配置転換を中心に扱う。

会社は人事権に基づき、就業規則に根拠となる包括条項があれば、原則として本人の個別同意なしに配置転換を命じることができる。ただし、この「原則」には次章で述べる条件が付く。

転勤・出向との違い

区分 変わるもの 労働契約
配置転換 職務・所属部署 変わらない
転勤 勤務地(配置転換のうち勤務地変更を伴うもの) 変わらない
出向 就労先(指揮命令権が他社に移る) 出向元との契約を残したまま出向先の指揮下で就労

配置転換命令はどこまで有効か

就業規則の包括条項があれば原則有効だが、業務上の必要性の不在・不当な動機や目的・労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益、のいずれかがあれば無効となりうる(東亜ペイント事件・最高裁昭和61年7月14日。厚生労働省「確かめよう労働条件」判例集)。

この3条件のうち「著しい不利益」の相場観は、個別の事情で分かれる。単身赴任そのものは、会社が手当等で不利益を緩和していれば甘受すべき範囲とされた例がある(帝国臓器製薬事件・東京地裁平成5年9月29日、最高裁平成11年9月17日上告棄却で確定。労働法ナビ)。一方、家族の要介護状態など代替が利かない事情がある場合は、命令が権利濫用として無効になる方向に働く(北海道コカ・コーラボトリング事件・札幌地裁平成9年7月23日。労働新聞社)。**この2件はいずれも転勤(勤務地変更)を伴う事案だが、配転命令権の濫用に関する判断枠組み(東亜ペイント事件の3条件)は転勤・配置転換に共通して適用されるため、不利益の相場観を測る参考例として扱う。**育児・介護休業法26条も、就業場所の変更を伴う配置で育児・介護が困難になる労働者への配慮を事業主に義務付けている(育児・介護休業法 第26条)。

ただし、2024年の最高裁判決で、確認する順序が1段増えた。 職種や業務内容を特定のものに限定する合意(黙示のものを含む)が労働者との間にある場合、会社は個別同意なしにその合意に反する配置転換を命じる権限そのものを持たない(滋賀県社会福祉協議会事件・最高裁令和6年4月26日。厚生労働省「確かめよう労働条件」判例集TMI総合法律事務所)。これは東亜ペイント事件の3条件(濫用の有無)を審査する以前の話であり、最初に見るべきは拒否理由ではなく、雇用契約書・労働条件通知書に職種限定の合意があるかどうかになる。

2024年4月1日以降に締結・更新した労働契約では、労働条件明示事項に「就業場所・業務の変更の範囲」が追加されている(厚生労働省)。この明示は職種限定合意の有無を判断する手がかりになるが、明示が不十分な場合に配転命令権そのものが無効となるかは、司法判断がまだ確定していない。断定はできない論点として扱う。

なぜ「法的に有効」でも揉めるのか

法的な有効性と本人の受容は別の軸で動くため、合意形成の手順を設計しないと、法的に有効な命令でもトラブルになる。

現場でつまずきやすいのは2点である。1つは、決裁が固まってから本人に伝えるまでに時間が空き、その間に異動元・異動先の関係者に話が回って、本人が別ルートで先に知ってしまうこと。もう1つは、打診と辞令を同じ場でやってしまうことで、形式上は相談でも本人には決定済みの通知としか映らない。

厚生労働省「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」も、候補段階での事情確認、時間的余裕をもった告知、趣旨・役割・条件の説明という段階を踏む設計を示している。この資料自体は転勤(勤務地変更)を主眼にしたものだが、決裁と告知の間を空けない・打診と辞令を分けるという段階設計の考え方は、同一勤務地内の配置転換にもそのまま当てはまる。決裁後は速やかに本人に伝え、打診と辞令を同じ場にしないことが、反発を進め方の問題にしないための最低限の設計になる。

本人の納得をどう得るか

打診→理由説明→懸念のヒアリング→正式辞令の順で進め、面談は役割を分けて3回に分けるとよい。

役割 やること
1回目 聞き切る 拒否理由を最後まで聞く。会社側の説明はこの回に持ち込まない
2回目 説明する 業務上の必要性を具体的に示す
3回目 代替案を出す 時期の後ろ倒し・業務範囲の一部限定・再検討の約束・手当等を提示する

1回目に会社側の説明を混ぜると、本人は「聞くふりをして押し切られた」と受け取りやすい。理由を聞く場と説得する場を分けること自体が、納得の得やすさを左右する。

就業規則上は個別同意が不要な場合でも、**命令できることと、実際に同意を取りにいく運用は両立する。**面談の設計自体が、有効性の議論とは別に、後々のトラブルを防ぐ手段になる。

拒否されたらどう対応するか

拒否理由が客観的に確認できる事情か、受容の問題かで切り分ける。

介護、本人や家族の傷病・通院の継続など、事実として確認でき、配置転換によって著しい不利益が生じる事情がある場合は、代替案を出すか配置自体を見直す。ここを押し切ると、命令の有効性そのものが争点になりうる。一方、「今の部署のほうがよい」といった受容の問題であれば、引き下がるのではなく、面談を積み増して説明を尽くす側に寄せる。

辞令を出す前には、3者それぞれの確認事項を揃えておく。

確認する人 確認すること
異動元・異動先の上司 着任後の業務範囲と、誰が評価者になるか
人事 雇用契約書・労働条件通知書上の変更の範囲と職種限定合意の有無(2024年4月以降の明示・令和6年最判への対応)、労働条件の変更点(不利益方向なら就業規則の根拠か労働契約法8条の合意)、育児・介護休業法26条の配慮
本人 打診時に出た懸念が解消しているか、赴任旅費・手当等の条件面の説明が済んでいるか

上司・人事・本人のいずれかの確認が抜けたまま辞令を出すと、着任後に「聞いていた仕事と違う」「条件を聞いていない」といった形で蒸し返される。

まとめ

配置転換は就業規則の包括条項があれば法的には命令できるが、それだけで現場は回らない。2024年の最高裁判決以降は、まず雇用契約書上の職種限定合意の有無を確認することが最初の一段になり、そのうえで打診から辞令までの合意形成の手順を設計できるかどうかが、同じ命令でもトラブルになるかを分ける。

制度・判例に関する解釈が分かれる論点(変更の範囲の明示が不十分な場合の効力等)は、本記事の整理だけで判断せず、社会保険労務士・弁護士に確認する運用を勧める。

よくある質問

配置転換を打診するとき、何に気をつければ本人の反発を防げますか

最初につまずきやすいのは、伝えるタイミングと進め方の2点である。決裁が固まってから本人に伝えるまでに間が空くと、異動元・異動先の関係者を経由して本人が先に知ってしまい、「自分だけ後回しにされた」という受け止めが残る。また、打診と辞令を同じ場で行うと、形式上は相談でも本人には決定済みの通知としか映らない。決裁後は速やかに本人へ伝え、打診と辞令の場を分けることが最低限の対応になる。

本人が難色を示した場合、面談はどう進めればよいですか

面談を1回で終わらせず、役割を分けて3回重ねるとよい。1回目は拒否理由を最後まで聞き切り、会社側の説明は持ち込まない。2回目に業務上の必要性を具体的に示す。3回目に時期の後ろ倒し・業務範囲の一部限定・再検討の約束といった代替案を提示する。1回目に説得を混ぜると、本人は「聞くふりをして押し切られた」と受け取りやすい。

拒否された場合、強行してよいケースと引き下がるべきケースはどう見分けますか

介護や傷病の継続など、客観的に確認でき、配置転換によって著しい不利益が生じる事情がある場合は、代替案を出すか配置自体を見直す。ここを押し切ると命令の有効性そのものが争点になりうる。一方、「今の部署のほうがよい」という受容の問題であれば、引き下がるのではなく面談を積み増して説明を尽くす。

辞令を出す前に、誰が何を確認しておくべきですか

上司は着任後の業務範囲と評価者を明確にしておく。人事は雇用契約書・労働条件通知書で就業場所・業務の変更の範囲や職種限定合意の有無を確認し、労働条件の変更点が不利益方向であれば就業規則の根拠や労働契約法8条の合意があるかを確認する。本人には、打診時に出た懸念が辞令前に解消しているかをもう一度確認する。

監修
山永 航太(代表取締役CEO/一般社団法人 人的資本経営推進協会 事務局長)
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