ダイレクトリクルーティングの運用|スカウト送信の前に決めること
監修
山永 航太 株式会社コテラス 代表取締役CEO/一般社団法人 人的資本経営推進協会 事務局長
立教大学 異文化コミュニケーション学部卒。2016年 楽天(株)グローバル人事部で新卒採用と人事企画を担当。2020年 (株)LabBase で採用コンサルティング部門の立ち上げ責任者を務め、2022年に株式会社コテラスを創業。2025年より一般社団法人 人的資本経営推進協会 事務局長。
■ この記事の要点
- スカウトメッセージは私信ではなく、職業安定法上の「労働者の募集」に該当し、送信企業自身が明示義務・的確表示義務の主体になる
- DMの文字数では法定の表示事項を書ききれないため、遷移先の求人ページ側で満たす設計にしておく必要がある
- ポジションクローズ後も同じテンプレートを使い回す運用は、情報を正確かつ最新に保つ義務との関係でリスクになる
- 現場社員や経営陣に送信権限を委譲する場合は、候補者からの条件面の質問にその場で何を答えてよいかを事前に決めておく必要がある
※ 本記事中の法令・ガイドラインに関する記載は、公開時点(2026年9月13日)の情報に基づく一般的な整理です。個別事案への適用にあたっては、所管官庁等が公開する最新の公式情報をご確認のうえ、必要に応じて弁護士等の専門家へご相談ください。
目次
スカウトメッセージは「私信」なのか、それとも「募集」なのか
職業安定法第4条第5項に照らすと、個々の候補者への直接のスカウトは同法上の「労働者の募集」に該当し、送信企業自身が明示義務・的確表示義務の主体になる。
同項は「労働者の募集」を「労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人に委託して、労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘すること」と定義している(e-Gov 職業安定法)。ダイレクトリクルーティングは、媒体に求人を掲載して応募を待つのではなく、企業が自ら個々の候補者を選び、直接勧誘する手法であり、この定義にそのまま当てはまる。つまり、スカウトを送る企業は媒体運営会社の陰に隠れた立場ではなく、それ自体が「労働者の募集を行う者」になる。
この位置づけの帰結として、送信企業は職業安定法第5条の3(労働条件等の明示義務)と第5条の4(求人等に関する情報の的確な表示義務)の対象になる。第5条の3は「労働者の募集を行う者」に対し、募集に応じて労働者になろうとする者へ業務内容・賃金・労働時間その他の労働条件を明示することを義務づけている(e-Gov 職業安定法)。第5条の4第1項は同じく「労働者の募集を行う者」に、広告等により求人等に関する情報を提供するときの虚偽表示・誤解を生じさせる表示を禁じている。これらは2022年(令和4年)10月1日に施行された改正で明確になった規定である(厚生労働省)。
労働条件の明示タイミングは、指針上「求人者と求職者が最初に接触する時点まで」が原則とされる。一方、スカウトDMのような一方向の送信そのものが、この「接触」や第5条の4の「広告等」による情報提供に当たるかどうかは、公的な解釈が明示されているわけではない。この記事では、断定はせず「該当し得るという前提で送信前の設計を組んでおく」という実務上の立場を取る。
送信前に、メッセージのどこまでを書き、どこから求人ページに任せるか
DMの文字数では法定の表示事項を書ききれないため、遷移先の求人ページ側で要件を満たす設計にしておくのが送信前の必須条件になる。
厚生労働省の周知では、労働者募集広告に必須の表示事項として、募集主の氏名・名称、住所、連絡先、業務内容、就業場所、賃金の6項目が示されている(厚生労働省)。2024年4月からは、就業場所・業務内容それぞれの「変更の範囲」も明示事項に加わっている。
| # | 表示事項 |
|---|---|
| 1 | 募集主の氏名・名称 |
| 2 | 住所 |
| 3 | 連絡先 |
| 4 | 業務内容(変更の範囲を含む) |
| 5 | 就業場所(変更の範囲を含む) |
| 6 | 賃金 |
DM本文だけでこの6項目を満たそうとすると、パーソナライズした訴求文の分量が削られる。実務上は、DM本文は「なぜあなたに送ったか」という訴求と遷移導線に絞り、契約期間・試用期間・労働時間・社会保険・受動喫煙防止といった詳細も含めて、リンク先の求人ページ側で6項目を過不足なく満たす設計にする方が現実的である。年収レンジを幅で示すこと自体は許容されるが、上限が実際より高く見える表示は「誤解を生じさせる表示」に当たるとされている(令和4年改正職業安定法Q&A 問2-3、厚生労働省)。固定残業代を含める場合は、時間数・金額・超過分の追加払いの有無まで内訳を明示する必要がある。ページ側で網羅しきれない事項がある場合は、DM文面に「詳細は面談時にお伝えします」等、別途明示する予定であることを記載しておく。
スカウトのテンプレートは、いつ更新すればよいか
ポジションクローズ後も同じ文面を使い回す運用は、効率化の問題ではなく、情報を正確かつ最新の内容に保つ義務との関係でリスクになる。
第5条の4第2項は「労働者の募集を行う者及び募集受託者は、労働者の募集に関する情報等を正確かつ最新の内容に保たなければならない」と定めている(e-Gov 職業安定法)。令和4年改正職業安定法Q&A 問2-7は、労働者の募集を行う者がこの情報について「一義的な責任」を負うとしたうえで、募集を終了した場合や内容を変更した場合には速やかに提供終了・変更を行うことを求めている(厚生労働省)。
違反時は、厚生労働大臣による指導・助言(第48条の2)を経て、改善命令(第48条の3第1項)に至り、命令に従わない場合は企業名が公表され得る(第48条の3第3項)。虚偽の広告や虚偽の条件提示をして募集を行った場合は、6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金という刑事罰の対象にもなる(第65条第9号、e-Gov 職業安定法)。事故が起きやすいのは、DM文面とページ側の情報を別々に管理し、片方だけ更新して片方を放置する二重管理の構造である。対処の型は3つある。第一に、条件面の情報はページ側に寄せ、テンプレートは訴求と導線に専念させる。第二に、テンプレートに求人IDと作成日を記載し、鮮度を機械的に判別できるようにする。第三に、ポジションのクローズ処理・テンプレートの停止・送信予約の取消を同一のワークフローに乗せ、クローズ処理だけが先行して文面が生き残る状態を作らない。
現場社員や経営陣に送信を任せるとき、何を事前に決めておくべきか
送信権限を委譲する場合は、候補者からの条件面の質問にその場で何を答えてよいかのガードレールを、権限を渡す前にすり合わせておく必要がある。
社員や経営陣が個人的にスカウトを送る場合も、それが会社の募集活動として行われる以上、明示義務・的確表示義務の主体は変わらず送信企業になる。合意に基づいて条件が変わること自体は虚偽表示に当たらないため、候補者との交渉を一律に禁じる必要はない(令和4年改正職業安定法Q&A 問2-1、厚生労働省)。リスクが生じやすいのは、確定していない条件を送信者がその場で口頭で答えてしまい、後から人事側の正式な条件と食い違うケースである。
ガードレールとして決めておくべきことは3点ある。第一に、送信者が即答してよい範囲を「公開済みの求人ページに書いてあること」までに限定する。第二に、それを超える質問には「条件については人事から正式にご案内します」という定型文で受け、エスカレーション先を決めておく。第三に、これらのルールを送信を始める前に伝達しておく。送信者を人事担当者だけに絞る必要はなく、むしろ現場社員や経営陣が送ること自体は候補者への訴求として有効なため、増やす方向を止める理由にはならない。
送信後の数値が悪化したとき、何を変えればよいか
送信数・開封率・求人閲覧率・返信率・応募率のどの段階が悪化しているかによって、戻すべき意思決定が変わる。
まず疑うべきはターゲットである。同一の検索条件でスカウトを送り続けると、返信しやすい層から順に枯れていくため、開封率・返信率がまとまって落ちている場合は、文面より先にターゲットの再設定を検討する必要がある。段階別に切り分けると次のようになる。
| 悪化している段階 | 疑うべき原因 | 戻すべき意思決定 |
|---|---|---|
| 開封率 | 件名・送信者名 | 件名の見直し、送信者の変更 |
| 求人ページへの遷移率 | DM本文の訴求内容 | 本文の書き方の見直し |
| 返信率 | 遷移先の求人ページ側の条件 | ページ側の情報設計の見直し |
| 応募率 | ファネル全体のターゲット | ターゲットの再設定 |
送信者の変更は、開封率が悪化した場合の打ち手の一つではあるが、まず件名や本文といった他の要因を切り分けたうえで検討する順番になる。他社のベンチマーク数値と比較して一喜一憂するよりも、自社の過去実績と比較する方が実務上は扱いやすい。数値を改善しようとする打ち手が、賃金レンジの誇張表示のように的確表示義務と衝突する方向に振れることもあるため、KPI診断は前段の送信前の設計(メッセージの書き分け、テンプレート管理、送信者ガードレール)に立ち返る前提で行う必要がある。
まとめ
ダイレクトリクルーティングで送るスカウトメッセージは、職業安定法上「労働者の募集」に該当し、送信企業自身が明示義務・的確表示義務の主体になる。この前提に立つと、送信前に決めておくべきことは3つに整理できる。DMに書ききれない法定表示事項を求人ページ側で満たす設計にすること、テンプレートを正確かつ最新の内容に保つ運用にすること、送信者に条件面の即答を許さないガードレールを敷くことである。送信後の数値が悪化した場合も、この3つの設計のどこに戻るべきかという順番で診断すると、的確表示義務と衝突しない改善に絞り込みやすくなる。
よくある質問
スカウトメッセージにも労働条件の明示義務がかかりますか
かかる。個々の候補者への直接のスカウトは職業安定法第4条第5項の「労働者の募集」に該当し、送信した企業自身が第5条の3の明示義務・第5条の4の的確表示義務の主体になる。媒体を通じて送る場合でも、募集情報について一義的な責任を負うのは媒体運営会社ではなく募集を行う企業である。
スカウト文面に賃金や就業場所を書かず、求人ページに委ねてもよいですか
遷移先の求人ページ側で表示事項を満たす設計になっていれば問題ない。募集広告等に必須とされる6情報(募集主の氏名・名称、住所、連絡先、業務内容、就業場所、賃金)に加え、契約期間・試用期間・労働時間・社会保険・受動喫煙防止措置といった詳細をページ側で過不足なく満たしておく。ページ側で網羅しきれない事項がある場合は、文面に「詳細は面談時にお伝えします」等、別途明示する予定であることを書いておく。
ポジションがクローズした後もテンプレートを使い続けると、どんな問題がありますか
職業安定法第5条の4第2項は、募集を行う者に募集情報を正確かつ最新の内容に保つ義務を課しており、募集終了や内容変更の際は速やかに提供終了・変更を行うことが求められる。クローズしたポジションのスカウトが送られ続ける状態はこの義務と衝突する。指導・助言を経て改善命令に至り、命令に従わない場合は企業名が公表され得る。
現場社員や経営陣にスカウト送信を任せても大丈夫ですか
任せてよい。ただし、社員個人のアカウントから送る場合も会社の募集活動であり、明示義務・的確表示義務の主体は会社のままである。送信前に、即答してよい範囲を「公開済みの求人ページに書いてあることまで」と線引きし、それを超える条件面の質問には「条件については人事から正式にご案内します」と返す定型文とエスカレーション先を決めておく。
返信率が落ちたとき、最初に何を見直すべきですか
送信数が維持できているのに返信率だけが落ちているなら、文面より先にターゲット設定を疑う。同じ検索条件で送り続けると、その条件で返信しやすい層から先に枯れていくためである。そのうえで、開封率が落ちていれば件名と送信者名、開封されているのに求人ページへ遷移していなければ本文、遷移しているのに返信がなければページ側の条件記載、と段階で切り分ける。